仮設公共空間の「居心地の良さ」を高めるデザイン手法と資材選定
仮設公共空間における「居心地の良さ」の重要性
都市部や地域の未利用地、広場などに短期間で設置される仮設公共空間は、人々の交流や憩いの場として、地域活性化に貢献する可能性を秘めています。その効果を最大限に引き出すためには、単に空間を用意するだけでなく、利用者が「また来たい」「ここで過ごしたい」と感じるような「居心地の良さ」をデザインすることが重要です。
限られた予算と時間の中で、恒久的な施設に匹敵するような居心地の良さを実現することは容易ではありません。しかし、仮設ならではの柔軟性や、適切なデザイン手法、そして特性を理解した資材選定によって、短期間の設置であっても魅力的な空間を創出することは可能です。この記事では、仮設公共空間における居心地の良さを構成する要素と、それを実現するためのデザイン手法、そして資材選定の考え方について解説します。
居心地を構成する要素
居心地の良さは、単一の要素によって決まるものではなく、様々な要因が複合的に作用して生まれます。仮設公共空間においては、主に以下の要素が関わってきます。
- 物理的快適性: 温度、湿度、明るさ、騒音、風通しなど、身体が直接感じる環境要因です。
- 感覚的快適性: 視覚(色彩、形態、緑)、聴覚(環境音、BGM)、触覚(素材の質感、座り心地)、嗅覚(香り、空気の質)など、五感に訴えかける要素です。
- 心理的快適性: 安全性、プライバシー、見通しの良さ、他者との適切な距離感、活動の自由度、多様な利用への対応など、心理的な安心感や満足感に関わる要素です。
これらの要素をバランス良く満たすことが、利用者が快適に過ごせる居心地の良い空間へと繋がります。
居心地を高めるデザイン手法
仮設公共空間のデザインにおいて、居心地の良さを追求するための具体的な手法をいくつかご紹介します。
ゾーニングとスケール感の調整
多様な活動に対応するため、空間内に異なる性格を持つゾーンを設けることが有効です。例えば、複数人で集まれる交流ゾーン、一人で静かに過ごせるリラックスゾーン、子供が遊べるプレイゾーンなどを区分けします。パーテーションや家具の配置、床材の変更、高低差などを利用することで、視覚的・機能的なゾーニングが可能です。また、全体として広すぎる空間は落ち着かない場合があるため、パーゴラやテント、植栽などを活用し、人間的なスケール感に合う「囲われた」空間を部分的に作ることも居心地の向上に寄与します。
五感に訴えかける設え
- 視覚: 周囲の景観との調和を考慮しつつ、色彩計画によって空間の雰囲気を作ります。植栽を取り入れることで、緑の安らぎや季節感をもたらし、視覚的な豊かさを加えます。夜間も利用される場合は、温かみのある照明や、空間を魅力的に見せるライトアップデザインも重要です。
- 聴覚: 周囲の騒音が気になる場所では、吸音・遮音効果のある資材(例: 厚手の布地、木材)の使用や、水の音、BGMなどを導入することも検討できます。
- 触覚: ベンチや椅子の素材は、座り心地や肌触りを考慮します。木材や布地は温かみを与え、利用者に安心感を提供しやすいでしょう。床材も歩行感や座り心地に影響します。
- 嗅覚: 花やハーブなどの植栽は、空間に心地よい香りを運びます。換気を適切に行い、淀んだ空気を防ぐことも重要です。
安全性とプライバシーへの配慮
利用者が安心して過ごせることは、居心地の良さの基礎となります。死角をなくす配置、適切な照明計画は防犯性を高めます。また、人通りの多い場所でも、適度な高さの植栽やパーテーションを設けることで、完全に孤立させずとも適度なプライバシーを確保し、落ち着ける場所を作り出せます。
居心地を支える資材選定
デザインの意図を実現するためには、適切な資材選びが不可欠です。仮設公共空間で居心地を高めるために考慮すべき資材の特性と、代表的な資材を挙げます。
資材選定の考え方
- 質感と色彩: 温かみ、柔らかさ、自然さなど、空間の雰囲気に合った質感や色彩を持つ資材を選びます。
- 機能性: 耐候性、耐久性、安全性(滑りにくさ、強度)、メンテナンスの容易さなどを確認します。特に屋外の場合、天候による影響を考慮する必要があります。
- 設置・撤去の容易さ: 短期間での設置・撤去が前提となるため、モジュール化されているもの、軽量なもの、組み立て・解体が簡単な資材が適しています。
- コスト: 予算内で最大の効果が得られるよう、コストパフォーマンスを考慮します。資材によってはレンタルも選択肢となります。
- 環境負荷: 再利用可能な資材や、環境負荷の低い素材を選ぶことは、持続可能な空間づくりに繋がります。
居心地向上に寄与する代表的な仮設資材
| 資材の種類 | 特徴 | 居心地への寄与 | | :------------- | :---------------------------------------------------------------- | :------------------------------------------------------------------------------------------------------------ | | ウッドデッキ | モジュール式、比較的軽量、設置・撤去容易、木材の質感。 | 地面の状態に関わらず平坦な床面を提供。木材の温かみがリラックス効果をもたらす。ゾーニングにも活用可能。 | | ベンチ・椅子 | 多様な素材(木、金属、プラスチック、布)、デザイン豊富。 | 利用者に休憩場所を提供。素材やデザインは空間の雰囲気を左右し、座り心地は快適性に直結。多様な形状で利用形態に対応。 | | パーゴラ・テント | 日差しや雨を防ぐ、空間に高さを加える、比較的軽量で設置・撤去可能。 | 適度な日陰や屋根を作り出し、物理的快適性を向上。空間に囲いを作り、落ち着きやプライバシー感を演出。 | | プランター・植栽 | 緑化効果、移動可能、多様なサイズ・植物。 | 視覚的な安らぎ、季節感、香りを提供。空間の仕切りや、景観のアクセントとして活用。空気質の向上にも寄与。 | | 照明器具 | 多様な種類(ポール灯、スポットライト、ストリングライトなど)、移動可能。 | 夜間の安全性確保、空間の雰囲気づくり。温かみのある光は心理的な安心感や居心地を高める。 | | サイン・アート | 情報表示、空間の個性付け、軽量で設置容易。 | 空間の目的や利用方法を分かりやすく伝える。視覚的な楽しさや興味を引く要素となり、空間への愛着を育む。 | | ファブリック | テント生地、クッション、ラグなど、軽量で色彩豊富、防炎加工可能。 | 柔らかさや温かみを加え、触覚的な快適性を向上。色彩や柄で空間の雰囲気を大きく変えられる。吸音効果を持つ場合も。 |
(表1:居心地向上に寄与する主な仮設資材の種類と特徴)
これらの資材を単体で考えるのではなく、空間全体の中でどのように組み合わせ、配置するかによって、居心地の良さは大きく左右されます。
計画段階での留意点
居心地の良い仮設公共空間を実現するためには、計画の初期段階から以下の点を考慮することが重要です。
- ターゲット利用者層と活動内容の想定: どのような人々が、どのような目的で空間を利用するかを明確にすることで、必要な機能やデザインの方向性が定まります。
- 敷地条件の把握: 日当たり、風向き、騒音レベル、高低差、既存構造物などを事前に確認し、デザインや資材選定に反映させます。
- デザインと資材の整合性: 目指す空間の雰囲気(例: 自然、モダン、賑やか)に合わせて、デザインと資材の質感・色彩・形態が一致しているかを確認します。
- メンテナンス計画: 仮設であっても、一定期間利用される以上、清掃や植栽の手入れなど、維持管理計画を考慮した資材選定やデザインが必要です。
まとめ
仮設公共空間における「居心地の良さ」は、利用者の満足度を高め、空間の活用度を向上させるための重要な要素です。物理的・感覚的・心理的な側面から居心地を捉え、適切なデザイン手法と、その意図を実現できる資材を組み合わせることで、短期間の設置であっても魅力的な公共空間を創出することが可能です。
計画段階から利用者の視点に立ち、敷地の特性や目的に合わせてデザインと資材選定を行うことが成功の鍵となります。本サイトでは、こうした仮設空間の実現に役立つ様々な情報を提供しています。具体的な資材情報やデザイン事例については、他の記事もご参照ください。