モジュール資材を活用した仮設公共空間のデザイン戦略:迅速な設置と多様な空間創出
はじめに
限られた予算と時間の中で、地域に新たな魅力や活動の場を生み出す仮設公共空間の設置は、都市計画における有効な手段の一つです。特に、迅速な設置と将来的な再利用・移設を視野に入れた計画においては、モジュール式の資材を活用するデザイン戦略が注目されています。
モジュール資材は、あらかじめ規格化された部材を組み合わせることで、多様な空間構成を可能にし、設計から設置までのリードタイムを大幅に短縮できるという特徴があります。本稿では、モジュール資材を用いた仮設公共空間のデザイン戦略とそのメリット、具体的な資材の種類、計画・設計におけるポイントについて解説します。
モジュール資材活用のメリット
モジュール資材を仮設公共空間の設計に活用することには、以下のようなメリットがあります。
- 迅速な設置と撤去: 工場生産された部材を現場で組み立てる方式が一般的であり、従来の建設方法に比べて工期を大幅に短縮できます。イベントや短期間の賑わい創出など、スピードが求められる場合に特に有効です。
- 高い柔軟性と拡張性: モジュールを組み合わせることで、空間のサイズや形状を自由に調整できます。また、利用状況に応じて後からモジュールを追加したり、構成を変更したりすることも容易です。
- コスト効率: 部材の規格化と工場生産により、製造コストや現場での労務費を抑えることが可能です。また、再利用や移設が容易なため、長期的な視点で見てもコスト効率に優れる場合があります。
- 品質の安定性: 工場での品質管理のもと生産されるため、部材の品質が安定しており、現場での予期せぬ不具合を減らすことができます。
- 環境負荷の低減: 繰り返し使用できる資材が多いため、廃棄物の削減につながります。また、軽量な資材を選択することで、運搬時のエネルギー消費を抑えることも可能です。
主なモジュール資材の種類と活用例
仮設公共空間に用いられるモジュール資材には様々な種類があり、それぞれ異なる特性を持っています。計画する空間の目的や必要な機能、予算に応じて適切な資材を選定することが重要です。
以下に、代表的なモジュール資材とその活用例を挙げます。
- デッキ材: 木製や樹脂製のデッキモジュールは、地面の状況に関わらず平坦な床面を迅速に作り出すことができます。広場の一部をウッドデッキの休憩スペースにしたり、既存の地面に段差を設けて変化のある空間を創出したりするのに適しています。
- シェルター/フレーム: 軽量な金属フレームや木材を組み合わせたシェルター、テント構造などは、簡易的な屋根や壁を設けるのに用いられます。日差しや雨を避ける休憩所、小さなイベントステージ、展示スペースなど、多様な用途に対応します。膜構造の技術も進化しており、デザイン性の高い屋根を実現できます。
- ベンチ・テーブル: 独立したベンチやテーブルのモジュールだけでなく、それらを組み合わせて様々なレイアウトが可能なシステム家具も増えています。空間の機能性や滞留性を高める上で重要な要素です。
- プランター/植栽ユニット: ユニット式の大型プランターや植栽ボックスは、空間に緑を取り込み、景観を向上させると同時に、空間の仕切りや動線誘導の役割も果たします。移動が比較的容易なため、配置を変えることで空間の雰囲気を変化させることができます。
- 照明器具: 独立して設置可能なポール型照明や、既存構造に取り付けやすいクリップ式・マグネット式照明など、様々なタイプの仮設向け照明があります。夜間の安全性確保や空間演出に不可欠です。電源不要なソーラー式なども選択肢に入ります。
- サイン/案内板: ユニット式のサインポールや案内板は、空間内の情報提供や誘導に役立ちます。視認性の高いデザインと配置が求められます。
これらの資材を単独で使うだけでなく、組み合わせて活用することで、より機能的で魅力的な空間を創出できます。例えば、デッキモジュールとシェルターを組み合わせて屋根付きの休憩スペースを作り、ユニットベンチとプランターで周囲を囲むといった構成です。
(表1:主な仮設モジュール資材の種類と特徴) | 資材の種類 | 主な材料 | 特徴 | 活用例 | | :----------------- | :-------------- | :--------------------------------- | :--------------------------------------- | | デッキ材 | 木材、樹脂 | 平坦な床面を迅速に構築、デザイン多様 | 休憩スペース、イベントエリアの床 | | シェルター/フレーム | 金属、木材、膜 | 簡易的な屋根・壁、多様な形状 | 休憩所、ステージ、展示ブース | | ベンチ・テーブル | 木材、金属、樹脂 | 滞留空間の創出、レイアウト変更容易 | 休憩・飲食スペース、打合せ場所 | | プランター/植栽 | FRP、金属、木材 | 緑化、空間の仕切り、景観向上 | 休憩スペースの囲み、動線誘導 | | 照明器具 | LED、金属など | 夜間の安全・演出、多様な設置方法 | 歩行空間照明、イベント照明 | | サイン/案内板 | 金属、樹脂など | 情報提供、誘導 | 空間の案内、イベント告知 |
モジュール資材を用いたデザイン・計画のポイント
モジュール資材を活用した仮設公共空間の計画・設計においては、以下のポイントに留意することが望ましいです。
- 目的と期間の明確化: どのような目的で、どのくらいの期間設置するのかを明確にすることで、必要な機能や資材の選定、耐久性のレベルが決まります。短期間のイベントであれば設置・撤去の容易さ、長期的な利用を想定する場合は耐久性やメンテナンス性がより重要になります。
- 敷地の状況把握: 設置場所の広さ、形状、高低差、地盤状況、既存のインフラ(電源、給排水など)を正確に把握することが、適切なモジュールの選定とレイアウトの基本となります。
- 組み合わせの検討: 単一のモジュールに拘らず、複数の種類のモジュール資材を組み合わせることで、より多様で機能的な空間を実現できます。組み合わせる際の規格の互換性なども確認が必要です。
- 安全性と耐久性: 仮設であっても、公共空間としての安全性は最優先事項です。資材自体の強度、組み立て後の構造安定性、滑り止め、段差対策など、安全に関する基準を満たしているかを確認します。また、設置期間中の天候変化に耐えうる耐久性も考慮が必要です。
- 設置・撤去計画: モジュールの搬入経路、組み立てに必要なスペース、設置手順、撤去方法、そして撤去後の資材の保管や再利用計画まで、一連のプロセスを具体的に計画しておくことで、スムーズな実施が可能となります。
- コスト試算の精度向上: モジュール資材は部材単位でコストが明確なことが多いため、必要なモジュール数を算出することで、比較的正確なコスト試算が可能です。運搬費、設置・撤去工事費、管理費なども含めた全体コストを把握します。
- ユニバーサルデザインへの配慮: 誰もが快適に利用できる空間とするため、車椅子利用者のためのスロープ設置、手すりの設置、適切な照度確保など、ユニバーサルデザインの観点を取り入れます。モジュールシステムの中には、ユニバーサルデザインに対応したオプション部材が用意されているものもあります。
まとめ
モジュール資材を活用した仮設公共空間のデザイン戦略は、迅速性、柔軟性、コスト効率といった多くのメリットをもたらし、自治体の都市計画担当者が抱える様々な課題に対し有効な解決策を提供します。多様なモジュール資材の特性を理解し、計画する空間の目的や敷地の状況に応じて適切に組み合わせることで、魅力的で機能的な仮設公共空間を短期間で実現することが可能です。
計画においては、デザインだけでなく、安全性、耐久性、設置・撤去、コスト、そして将来的な再利用までを見据えた総合的な視点が求められます。モジュール資材に関する情報を収集し、具体的な活用方法を検討することで、より効果的な仮設公共空間の創出につながるものと考えられます。