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短期間設置の仮設空間で実現する移動円滑化:計画と資材選定

Tags: 仮設公共空間, 移動円滑化, バリアフリー, 資材選定, 計画

仮設公共空間における移動円滑化の重要性

近年、地域の賑わい創出や暫定的な土地利用として、短期間で設置・撤去が可能な仮設公共空間の活用が進んでいます。このような空間を計画するにあたり、すべての利用者が安全かつ快適にアクセスし、滞在できる環境を整備することは極めて重要です。特に、高齢者や障がいのある方、ベビーカー利用者、一時的な怪我人など、様々な移動特性を持つ方々への配慮、すなわち「移動円滑化(バリアフリー)」は、公共空間としての基本的な役割を果たす上で不可欠な要素と言えます。

仮設空間では、既存の舗装状況や地形に加えて、短期間での設置・撤去、コスト制約といった仮設ならではの課題が存在します。これらの課題を克服し、移動円滑化を実現するための計画立案や資材選定のポイントについて解説します。

計画段階で考慮すべき移動円滑化の視点

仮設公共空間の計画の初期段階から移動円滑化の視点を取り入れることが、後工程での手戻りを防ぎ、コスト効率を高める上で有効です。

  1. サイトの選定と現況把握:

    • 可能な限り既存の段差が少なく、平坦な敷地を選定することが望ましいです。
    • 敷地の高低差、既存の舗装状況、周囲からのアクセスルートなどを事前に詳細に調査します。
    • 特に、出入り口周辺や敷地内の主要な動線となる箇所の状況把握は重要です。
  2. 主要動線の計画:

    • 駐車場や公共交通機関からのアクセスルート、仮設空間内の各エリア(イベントスペース、休憩所、トイレ、情報コーナーなど)を結ぶ主要な動線を明確に計画します。
    • これらの主要動線は、移動円滑化の基準を満たす必要があります。
  3. 段差の解消とスロープの設置:

    • 敷地内の高低差や既存施設との接続部に段差が生じる場合、スロープの設置を検討します。
    • スロープの勾配は、永続的な建築物や施設に関する基準(例えば、建築基準法施行令や高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)に関連する基準)を参考に、可能な限り緩やかな勾配となるように設計します。例えば、一般的な基準では1/12以下が推奨されますが、設置スペースや期間、利用状況に応じて現実的な範囲で最適な勾配を検討します。
    • スロープの幅員や長さ、手すりの設置の要否についても、想定される利用者数や利用方法を考慮して計画します。
  4. 通路幅員と空間の確保:

    • 主要な通路の有効幅員は、車いす利用者のすれ違いや回転を考慮し、最低限必要な幅(一般的に1.2m以上、推奨1.8m以上など)を確保します。
    • 休憩スペースや案内所などでは、車いすが転回できるスペース(直径1.5m程度の円)を確保します。
  5. サイン計画と情報提供:

    • 仮設空間内の案内表示や注意喚起サインは、誰にでも分かりやすいユニバーサルデザインの考え方を取り入れ、適切な高さと大きさで設置します。
    • 点字表示や音声案内なども、必要に応じて検討します。

移動円滑化を実現する具体的なデザインと資材選定

移動円滑化に配慮した仮設空間を短期間で実現するためには、適切な資材の選定が鍵となります。

  1. 床面・舗装材:

    • 平坦性: 路面は可能な限り平坦に仕上げる必要があります。凹凸や隙間が多い資材は、車いすやベビーカーの走行を妨げ、転倒のリスクを高めます。
    • 滑りにくさ: 雨天時でも滑りにくい材質を選定します。
    • 資材の種類:
      • 仮設用舗装パネル・マット: プラスチック製やゴム製などのパネルやマットは、既存の地面の上に敷くだけで比較的容易に平坦な路面を構築できます。設置・撤去が迅速に行え、再利用可能な製品もあります。
      • ウッドチップ・砂利: 自然な景観を演出しやすいですが、路面が不安定になりやすく、車いす等での移動には適さない場合があります。使用する場合は、通路部分にはパネルなどを併用するなどの工夫が必要です。
      • 簡易アスファルト舗装: 部分的な補修や通路の構築に利用できますが、乾燥に時間を要する場合があり、撤去に手間がかかることがあります。
  2. スロープ資材:

    • 既製スロープ: アルミニウム製やFRP製など、軽量で設置・撤去が容易な既製スロープが多様に販売されています。設置したい場所の段差高と必要な勾配から、適切な長さと耐荷重の製品を選定します。
    • ユニット式スロープ: 組み合わせて長さを調整できるタイプもあります。
    • 手すり: スロープの長さに応じて、仮設用の手すり資材の設置も検討します。組み立て式や差し込み式など、仮設に適した製品があります。
  3. 休憩スペースの資材:

    • ベンチ・テーブル: 軽量で移動可能なベンチやテーブルを選定することで、レイアウトの変更が容易になります。車いす利用者が横付けできるスペースのあるテーブルも検討します。
    • 日除け・雨除け: テントや簡易シェルターなどを設置し、悪天候時でも利用できる快適なスペースを確保します。
  4. その他:

    • 仮設トイレ: バリアフリー対応の広さを持ち、手すりや非常呼び出し装置などを備えた仮設トイレの設置は、多様な利用者のニーズに応える上で重要です。
    • 照明: 夜間に利用する場合、通路や段差箇所には十分な明るさの照明を設置し、安全な移動を確保します。仮設用のLED照明器具などが活用できます。

設置・運用時の留意点とコスト効率

移動円滑化のための設えは、適切に設置・管理されてこそ機能します。

まとめ

仮設公共空間における移動円滑化への配慮は、特定の利用者だけでなく、すべての人々が安全で快適に空間を享受するために不可欠です。計画の初期段階から移動円滑化の視点を取り入れ、敷地特性や利用目的に応じた適切なデザイン手法と資材を選定することで、短期間の設置であっても質の高い公共空間を実現することが可能です。多様な市民が気軽に立ち寄り、心地よく過ごせる仮設空間の整備に向け、これらの情報がお役に立てば幸いです。