仮設公共空間の景観デザイン:短期間で実現する周囲との調和
なぜ仮設公共空間にも景観デザインが必要か
都市空間に一時的に創出される仮設公共空間は、イベント利用や社会実験など、多様な目的で活用されています。その最大の特長は、短期間での設置と撤去が可能な柔軟性にあります。しかし、その設置期間が比較的短くても、周囲の景観や環境との調和は重要な考慮事項となります。
地域の美観を損なうことなく、むしろ魅力的な一時的な景観要素として機能させることは、地域住民の受容性を高め、利用促進にもつながります。特に、歴史的な街並みや自然豊かな場所に設置する場合、周囲との不調和は大きな問題となる可能性があります。限られた予算と時間の中で、どのように景観に配慮したデザインを実現するかが、自治体担当者にとっての課題の一つと言えます。
この記事では、短期間設置を前提とした仮設公共空間における景観デザインの基本的な考え方と、それを実現するための具体的な手法、資材選定のポイントについて解説します。
仮設性における景観デザインの基本的な考え方
仮設公共空間の景観デザインを検討する際には、永続的な空間とは異なる視点が必要です。
- 周囲環境への「なじみやすさ」: 設置場所の建築様式、色彩、スケール感、自然環境などを事前に調査し、空間が「浮いて」見えないような配慮が求められます。短期間だからこそ、過度に自己主張せず、周囲に溶け込むようなデザインが有効な場合が多いです。
- 一時的な変化としてのポジティブな景観: 単に周囲に合わせるだけでなく、仮設ならではの軽やかさや楽しさ、意外性などを取り入れ、一時的な期間における街の魅力向上に貢献することも可能です。ただし、それは周囲の景観特性を理解した上で行う必要があります。
- 撤去後の景観への配慮: 仮設空間は最終的に撤去されます。設置期間中だけでなく、撤去後に元の景観を損なわない計画が重要です。基礎の残存や地面の荒廃などを最小限に抑える設計や資材選定が求められます。
短期間で実現する具体的な景観デザイン手法
限られた時間の中で景観に配慮したデザインを行うためには、効率的かつ効果的な手法を選択する必要があります。
1. 色彩計画
周囲の建物や自然の色合いとの調和を意識した色彩計画は、短時間で大きな効果をもたらします。
- 周囲のキーカラーの抽出: 設置場所の建物、舗装、植栽などに多く使われている色を分析します。
- アースカラーの活用: 木材の色、ベージュ、ブラウン、グリーンなど、自然界に存在する色は多くの環境に馴染みやすい傾向があります。
- アクセントカラーの限定: 全体を落ち着いたトーンでまとめつつ、誘導サインや一部の家具などに限定的に明るい色やテーマカラーを用いることで、活気を与えつつ全体の調和を保ちます。
2. 形状と配置
空間全体の形状や各要素の配置も、景観に大きく影響します。
- シンプルな形状: 複雑な形状よりも、直線や緩やかな曲線を用いたシンプルな構成は、周囲の景観を邪魔しにくい傾向があります。
- ボリュームの抑制: 周囲の建物に比べて過度に高すぎたり大きすぎたりしないよう、空間全体のボリューム感を抑えることが重要です。
- 圧迫感の軽減: 高い壁面を連続させず、透過性のある素材(メッシュなど)を利用したり、適切な開口部を設けたりすることで、空間の圧迫感を軽減し、視線の抜けを確保します。
- 既存動線への配慮: 人の流れや視線の動きを阻害しない配置計画を行います。
3. 素材感の活用
資材の持つ素材感は、空間の雰囲気を決定づける重要な要素です。
- 周辺環境とのマッチング: 木材は自然豊かな場所や和風の街並みに、金属やガラスはモダンな都市部に馴染みやすいなど、設置場所の雰囲気に合った素材を選択します。
- 「本物」の質感: 短期間でも、可能な範囲でプラスチックよりも木材、シートよりもファブリックなど、「本物」に近い質感を持つ資材を選ぶことで、安っぽさを避け、落ち着いた印象を与えられます。ただし、コストや耐久性とのバランスも考慮が必要です。
4. 短期設置が容易な緑化手法
緑は周囲の景観に潤いと安らぎを与え、仮設空間の質を高めます。短期間で設置・撤去が容易な手法があります。
- コンテナガーデン: 大型プランターに樹木や草花を植え込む方法。配置の変更も容易で、撤去時の原状回復も比較的容易です。
- 壁面緑化ユニット: 組み立て式の壁面緑化システムは、垂直方向の緑化を効率的に実現します。
- 芝生マット/シート: 短期間で広範囲の地面を緑化できます。
5. 照明計画
夜間の景観も重要な考慮事項です。
- 周辺照度とのバランス: 過度に明るすぎる照明は、周囲の環境から浮いて見えたり、光害の原因となったりします。周辺の街路灯や建物の照明とのバランスを考慮します。
- 柔らかい光: 直接的な強い光よりも、間接照明やアップライト、ポールライトなど、柔らかい光を用いることで、落ち着いた温かみのある雰囲気を演出できます。
- 防犯と安全性の確保: 美観だけでなく、夜間の安全な利用のための十分な照度確保も忘れてはなりません。
景観に配慮した資材選定のポイント
デザイン手法を実現するためには、適切な資材選定が不可欠です。
- 色彩・質感の選択肢: 周囲の景観に馴染む色や質感の選択肢が豊富な資材を選ぶことが重要です。例えば、木材であれば様々な樹種や仕上げ方法があり、金属であれば塗装色や表面処理で印象が変わります。
- モジュール化された資材: 標準化された部材で構成されるモジュール資材は、デザインの自由度を保ちつつ、全体の統一感を出しやすく、景観のまとまりを維持するのに役立ちます。また、短期間での設置・撤去にも有利です。
- 耐久性とメンテナンス性: 短期間の設置であっても、期間中に著しく劣化したり汚れたりする資材は景観を損ないます。雨風に耐えうる最低限の耐久性や、汚れがつきにくい、あるいは清掃しやすい素材を選ぶことも景観維持の観点から重要です。
- 環境負荷と再利用: 撤去後の景観や環境への配慮として、リサイクル可能な資材や、他の場所での再利用が容易な資材を選ぶことが推奨されます。
計画プロセスにおける景観への留意点
景観への配慮は、デザイン段階だけでなく、計画の初期段階からプロセス全体を通じて意識する必要があります。
- 設置場所の徹底的な調査: 景観に関する条例やガイドラインの確認、周囲の写真を撮影するなど、設置場所の景観特性を詳細に把握します。
- 専門家への相談: 予算や時間に制約がある場合でも、景観デザイナーや建築家など専門家から短時間でもアドバイスを受けることで、効果的なデザインの方向性を見出せる場合があります。
- 住民や関係者とのコミュニケーション: 設置場所周辺の住民や関係者に対し、デザインの意図や景観への配慮について丁寧に説明し、理解を得ることが円滑な計画推進につながります。景観に関する懸念があれば、可能な範囲で計画に反映することも検討します。
- 複数案の比較検討: 一つのデザイン案に固執せず、複数の選択肢(例:色彩、配置、使用資材の組み合わせ)を比較検討することで、より景観に馴染む最適な解を見つけやすくなります。必要であれば、簡易な合成写真などを作成し、景観への影響を視覚的に確認することも有効です。
まとめ
仮設公共空間における景観デザインは、短期間という制約の中で、いかに周囲環境と調和し、地域にとって心地よい一時的な空間を創出できるかが鍵となります。色彩計画、形状、素材感、緑化、照明といった様々な要素を、設置場所の特性や目的に合わせて慎重に検討し、適切な資材を選定することが重要です。
本サイトで提供しているデザインツールや資材情報を活用することで、限られた時間と予算の中でも、景観に配慮した質の高い仮設公共空間を実現するためのヒントを得ることができるでしょう。地域の魅力を高め、誰もが快適に利用できる仮設空間づくりの一助となれば幸いです。