仮設公共空間を構成する主要資材の特性と選び方
はじめに
短期間で設置・撤去が可能な仮設公共空間は、都市の遊休地活用、イベントスペース創出、賑わいづくりなど、様々な目的に応じて柔軟に活用されています。こうした仮設空間の質を左右する重要な要素の一つが、使用される「資材」です。限られた予算と時間の中で、安全性、耐久性、デザイン性、設置の容易さなどを考慮した適切な資材選定は、計画の成功に不可欠となります。
ここでは、仮設公共空間を構成する上で主要となる資材の種類と、それぞれの特性、そして具体的な選び方のポイントについて解説します。
仮設公共空間における主要な資材の種類と特性
仮設公共空間の機能やデザインは、組み合わせる資材によって大きく変化します。代表的な資材とその特性を以下に示します。(表1:主な仮設資材の種類と特徴)
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デッキ材:
- 天然木材:自然な風合いと温かみが魅力ですが、定期的なメンテナンスが必要です。コストは種類によります。
- 再生木材(樹脂木):メンテナンスが容易で耐久性に優れます。天然木に比べ初期コストは高めですが、長持ちします。
- ウッドデッキシステム:ユニット式で簡単に組み立て・解体できるタイプが多く、設置・撤去の時間を短縮できます。
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舗装材:
- タイル/ブロック:一時的な設置に適した置くだけのタイプや、連結式のタイプがあります。デザイン性が高く、多様なパターン表現が可能です。強度や滑りにくさも考慮が必要です。
- シート材:軽量で持ち運びが容易なため、広い面積を短時間でカバーするのに適しています。グラフィックを施すことも可能です。耐久性はタイプによります。
- 砂利/ウッドチップ:自然な雰囲気を出しやすく、比較的安価ですが、管理が必要な場合があります。
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ファニチャー:
- ベンチ、テーブル、椅子:多様な素材(木材、金属、プラスチックなど)やデザインのものがあります。軽量で移動しやすいもの、連結可能なものなどが仮設に適しています。
- シェード/パラソル:日差しや雨を避ける機能を提供します。自立式や固定式などがあり、設置場所や期間に応じて選びます。
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植栽/グリーン:
- 大型プランター:移動可能で、手軽に緑を配置できます。様々な素材やサイズがあり、空間の仕切りとしても機能します。
- 緑化パネル:壁面やフェンスに緑を付加し、景観を向上させます。軽量な人工素材や、本物の植物を使ったものがあります。
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シェルター/テント:
- 簡易テント:イベント時の休憩スペースや受付などに短時間で設置できます。サイズや形状が豊富です。
- システムシェルター:ユニットを組み合わせて比較的大規模な屋根付き空間を構築できます。設置には時間がかかる場合がありますが、しっかりとした空間を作れます。
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その他:
- 照明器具:夜間の安全性確保や雰囲気づくりに不可欠です。コードレスタイプやソーラータイプは設置が容易です。
- フェンス/囲い:区域を明確にしたり、安全を確保したりするために使用します。素材やデザインで空間の印象が変わります。
資材比較検討の観点
資材を選定する際には、単にデザインや価格だけでなく、複数の観点から比較検討することが重要です。(表2:資材比較検討の主な観点)
- 初期コスト: 資材そのものの購入費です。ただし、これだけでなく運搬費や設置工事費も含めた総コストで考える必要があります。
- 設置・撤去の容易さ・時間: 短期間での設置が前提のため、専門的な技術が不要か、少人数で作業できるか、どれくらいの時間で完了するかは重要な指標です。ユニット式や軽量な資材が有利な場合があります。
- 耐久性・メンテナンス性: 使用期間中の劣化度合いや、清掃・補修の手間を考慮します。特に長期間設置する場合や、多くの人が利用する場合は、耐久性の高い資材を選ぶことで維持管理コストを抑えられます。
- 安全性: 利用者の安全を確保するための最も重要な観点です。資材自体の強度、表面の滑りにくさ、燃えにくさ、角の処理などを確認します。特に子供や高齢者が利用する可能性がある場合は、安全基準を満たす資材を選びます。
- デザイン性・景観との調和: 設置場所周辺の景観や、創出したい空間のイメージに合ったデザインであるか、他の資材との調和が取れるかを確認します。
- 環境負荷: リサイクル可能な素材か、製造過程での環境負荷は低いかなど、持続可能性の観点も重要になりつつあります。
- カスタマイズ性・拡張性: 設置場所の形状に合わせて調整できるか、将来的に規模を拡張したり、配置を変更したりしやすいかも検討要素です。
- 耐候性: 雨、風、紫外線など、屋外環境での使用に耐えられる素材か確認します。
用途・目的に合わせた資材選定の考え方
どのような目的で、どのような活動を誘発したいかによって、最適な資材は異なります。
- 休憩・滞在スペースの創出: 快適な座り心地を提供するベンチやチェア、居心地の良い雰囲気を作るウッドデッキや自然な風合いの舗装材、日差しを遮るシェードなどが中心になります。
- イベント・パフォーマンスエリア: 短時間での設営・撤去が可能な簡易ステージやテント、多くの人が利用しても安全な舗装材、エリアを区切るフェンスなどが適しています。
- 通路・動線の整備: 安全かつスムーズな移動を確保できる滑りにくい舗装材やマット、必要に応じて手すりや誘導表示を設置します。
- 景観向上・緑化: 大型プランターによる季節の植栽、壁面緑化パネル、デザイン性の高いファニチャーなどが効果的です。
コスト試算における考慮事項
仮設公共空間のコストは、資材費だけでなく、運搬費、設置・撤去工事費、設計費、申請費用、維持管理費、そして撤去・原状回復にかかる費用など、様々な要素で構成されます。資材選定の段階では、資材単価だけでなく、以下の点を考慮して全体的なコストを試算することが重要です。
- 資材の数量に応じた割引の可能性
- 運搬距離や設置場所の条件による運搬費の変動
- 資材のタイプによる設置・撤去作業の手間と専門性の要否(人件費)
- レンタル資材を利用する場合と購入する場合の比較
- 定期的な清掃や軽微な補修にかかる維持管理費
信頼できるサプライヤーから見積もりを取り、複数の資材オプションで比較検討することをお勧めします。
資材選定における注意点
資材を選定する際には、機能性やコストだけでなく、法規制や安全基準への適合性を必ず確認してください。特に、多数の人が利用する可能性がある場所では、建築基準法、消防法、バリアフリー基準など、関連法規への対応が求められる場合があります。また、資材の設置方法によっては、構造的な検討や許認可が必要になることもあります。事前に専門家や関係部署と連携し、必要な手続きや確認を行うことが重要です。
まとめ
仮設公共空間における資材選定は、空間の機能性、安全性、デザイン、そしてコスト効率を決定づける重要なプロセスです。多様な資材の中から、プロジェクトの目的、利用期間、設置場所の特性、予算などを総合的に考慮し、それぞれの資材の特性を比較検討しながら最適な選択を行うことが、魅力と安全性、そして実現可能性を兼ね備えた仮設公共空間を創出する鍵となります。計画段階から資材メーカーや専門家と連携し、具体的な情報を収集することをお勧めします。